最近日本で悲しいニュースが相次いでいます。
そして有名な方が自殺で亡くなったと報道されると、あとを追うように自ら命を絶つ人が増えることも事実です。
この記事では、ある人の死が報道されると連鎖して自殺が起こる「ウェルテル効果」と逆の「パパゲーノ効果」についてご紹介します。
メディアの影響力について考えるきっかけになればと思います。
「ウェルテル効果」とはどんな現象?
「ウェルテル効果」の名前の由来は、1774年出版のゲーテ著「若きウェルテルの悩み」。
出版当時、ヨーロッパ中でベストセラーになった本です。
物語では、主人公ウェルテルがシャルロッテに恋をしますが、彼女には婚約者がいてかなわぬ思いに絶望し、最後に自殺で亡くなってしまいます。
そして、この話に影響を受けた若者たちが、同じ方法であと追い自殺をした現象から名付けられました。
ある人物の自殺の発表により自殺者数が増加すること。
影響力の大きさに、ヨーロッパのいくつかの国では「若きウェルテルの悩み」が発売禁止になったそうです。
ウェルテル効果と名前をつけた提唱者は、アメリカの社会学者であるデービッド・フィリップス氏。
彼は以下のふたつを比較し、報道が自殺率に影響することを証明しました。
- 1974年から1967年までのアメリカの自殺統計
- ニューヨークタイムズの一面に掲載された自殺記事
また同時に次のような調査結果も発表しています。
- 自殺事例に関する情報を公開することはあと追い自殺を誘発する。
- 報道に登場した人物に近い属性の人々に大きな影響を与える。
- 自殺が大きく報道されればされるほど自殺率が上がる。
- 自殺の記事が手に入りやすい地域ほど自殺率が上がる。
別の1988年から1996年にアメリカで調査された研究によると、次のようなこともわかっています。
- 自殺に関する新聞での報道自体、また報道のひん度や記事の見出し、内容などが若者の連鎖自殺の危険性を高める可能性がある。
- 自殺の新聞報道と連鎖自殺の関係をみると、あと追い自殺が多いケースでは以下のひん度が高かった。
- 見出しタイトルに「自殺」の文字を含む。
- 見出しタイトルに自殺手段が示される。
- 記事の内容に自殺の状況や自殺者の詳しい情報がある。
- 写真が掲載されている。
またウェルテル効果の特徴のひとつとして、自殺者と同じ手段で死をとげることがあげられます。
つまり、ウェルテル効果を現代に置き換えてみると次のようにもいえます。
そして「いじめ自殺」、「不況自殺」などセンセーショナルな報道によっても自殺者が増えてしまいます。
では、日本においては実際にどんなウェルテル効果の例があったのでしょうか?
日本でのウェルテル効果の例は?
日本では、ウェルテル効果を「連鎖自殺」や「群発自殺」と呼ぶこともあります。
一般人のあと追い自殺や模倣自殺は、日本でも昔から起こっていました。
古くは「曽根崎心中」や「心中天網島」に影響された心中(男女が一緒に自殺すること)が流行ったそうです。
その結果、幕府は心中もの浄瑠璃(じょうるり)を禁止することに。
また昭和の時代には、以下のようなことがありました。
- 岡田有希子さん
1986年、当時18歳でトップアイドルだった岡田有希子さんが自殺で亡くなった直後、同じ方法で自殺する人が増加した。
- X JAPANのhideさん
1998年、hideさんの死去がワイドショーで大々的に取り上げられ、ファンのあと追い自殺が社会現象になった。
その結果、バンドメンバーが記者会見を開き、自殺を思いとどまるよう訴えた。
またインターネットが普及してからは、以下のような連鎖自殺もみられるように。
- ネット自殺
2003年、インターネットの自殺系サイトで知り合った若い男女3人が自殺。
ネット集団自殺に関する報道に影響を受けたと思われる、ほかの3人が同じ方法で集団自殺。
- 上原美優さん
そして最近では2011年に人気タレントの上原美優さんの死後、同年代である20〜30代の女性の自殺が増えました。
ウェルテル効果についてはアメリカの研究が多いようですが、日本でも調べられていますので、内容をお伝えします。
日本の論文にみるウェルテル効果ーあと追い自殺の上昇率
内閣府経済社会総合研究所の調査では、次のようなことがわかったそうです。
けっこう高い数字だと思いませんか?
特に、政治家と芸能人の自殺に関する報道の影響が大きいということです。
あと追い自殺や模倣自殺が起こる心理的状態については、次のように書かれています。
- 以前に自殺を考え何らかの理由で思いとどまった人が、著名人の自殺が美化されているのを見て自殺する。
- 模倣自殺をする人は報道を見て自殺を社会的に許容されるものと学習し、自分も自殺に及ぶ。
- 自殺者に何らかのかたちで同一化、あるいは共鳴する。
- 影響を受けやすいのは対象が芸能人、そして自分と似た人、あるいは似た悩みを抱えている人の場合。
論文のなかには、過去の研究や調査の記述もあったのでまとめてみます。
- 一般人の自殺記事より、著名人の自殺記事の方が影響が大きい。
- 報道での取り上げられ方が大きければ大きいほど影響力が強い。
- 日本以外に、アメリカ、ドイツ、カナダ、韓国、台湾、香港、オーストラリアでも自殺に関する報道後に自殺率の上昇がみられる。
参考:内閣府経済社会総合研究所:著名人の自殺に関する報道が自殺者数に与える影響:警察庁の自殺統計を用いた分析(上田 路子氏著)
- 自分が苦しんだり悩んだりしている。
→同世代だったり、いつも見ていて親近感を感じていた人が自殺をする。
→あんなにすごい人でも悩みを解決できないのなら、自分も困難を乗り越えられないだろう、と考える。
またファンだった芸能人やスポーツ選手などが自殺すると、悲しさのあまりアルコールや、なかには薬物に走ってしまうことも。
その結果、突発的に自殺や自らを傷つける行為におよぶ可能性もあります。
ですので、
ウェルテル効果の逆は「パパゲーノ効果」
メディアの報道が自殺を誘発する危険性がありますが、逆の「パパゲーノ効果」もあります。
自殺予防に関して報じると、自殺を防ぐ可能性が高まること。
モーツァルトのオペラ「魔笛」の登場人物、パパゲーノが名前の由来です。
恋人を連れ去られてしまったパパゲーノが自殺を考えていると、3人の子どもの姿をした精霊が「魔法の鈴」を使うように伝えて自殺の考えから救う話がもとになります。
パパゲーノ効果は、次のような内容を報じることにより発揮されます。
具体例をあげると、次のようなことです。
- つらい逆境にいて自殺を考えていた人が危機を乗り越えたストーリーを伝える。
- 生きることの意味を考える契機にする。
- 自殺を考えたときに相談できる支援サービスの情報を提供する。
参考:Werther効果とPapageno効果: 自殺予防におけるマスメディアの功罪について(齊尾 武郎氏著)
自殺報道は慎重にするべきーウェルテル効果のまとめ
この記事では、ウェルテル効果についてご紹介しました。
自殺の報道は特に有名人の場合大きな影響力を持ち、あと追い自殺を誘発してしまう危険性があります。
日本でも少しずつ変化しているようですが、センセーショナルな報道スタイルはやめ、パパゲーノ効果を発揮させるようその力を使ってほしいと願うばかりです。
今年に入って著名人の自殺が相次ぎ、日本での報じ方に疑問を感じたので、こちらの記事で思いをつづっています。
【日本のサポート窓口の一例はこちらです】
- 1737:1737に無料テキストか電話をすると、いつでもカウンセラーがでます。
- Healthline:0800 611 116
- Lifeline:0800 543 354 か 09 522 2999か テキストでHELP と 4357に送る
- Depression Helpline: 0800 111 757 (24/7) か 4202 にテキスト
- Youthline: 0800 376 633 (24/7) か無料テキスト 234 (8am-12am)
Eメール: talk@youthline.co.nz - Kidsline (5歳〜18歳): 0800 543 754 (24/7)
- Rainbow Youth: (09) 376 4155
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